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「被害者支援と地雷回避教育のための常設委員会」報告

真野玄範(世界YMCA同盟)

■ 全般について

 2001年5月7〜8日、ジュネーブ人道的地雷除去センター(GICHD)にて、「被害者支援と地雷回避教育のための常設委員会(SC-VA)」が開かれ、オブザーバー参加しました。参加者数 261人(政府派遣 70ヵ国 158人、国際機関・NGO 103人)でした。今回の常設委員会全体では政府代表だけでも80ヵ国350人が参加し、第3回対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)締約国会議を前に、地雷廃絶の気運が衰えていないことが示されました。

 オタワ条約非加盟国の内、アメリカ合衆国、インド、中国、韓国などは参加しませんでしたが、ロシア、北朝鮮、キューバ、スリランカなどが参加していました。

 日本からは議長を務めた黒河内久美さん(外務省参与)、田邊淳次さん(外務省総合外交政策局国際社会協力部人権難民課 外務事務官)の2人と、ジュネーブ駐在の軍縮会議日本政府代表部から4人が参加しただけでした。その他の参加した日本人はUNMAS(United Nations Mine Action Service)のVictim Assistance Officer 池田あきこさん、AAR 長さん、そして世界YMCA同盟/JCBL 真野でした。

 常設委員会は、第1回オタワ締約国会議において設置され、毎年2回開かれています。その役割は「進展を記し、測り、促進すること」にあり、未加盟国や国際機関、NGOの参加も歓迎されるダイナミズムに溢れたインフォーマルな会議です。

 今回の会議は2000-2001年の第2回SC-VAで、1999-2000年のインターセッショナルワーク(締約国会議間活動)1年目に提起され、第2回締約国会議で承認された各種取組の具体的な進捗状況を中心に報告、検討されました。

 全体会議は、内容盛り沢山で発表者が多すぎてどのセッションも押せ押せになり質問の時間がほとんど取れず、各イニシアティブの進捗状況を大急ぎで確認したという感じでした。会議と並行して、あるいは会議の合間に、幾つものクローズド・ミーティングが開かれ、討議はそうした場で行われている様子でした。(ICBLのミーティング、インターセッショナル・コンタクトグループ、普遍化に関するコンタクトグループ、第7条のコンタクトグループなどのミーティングなど、他にも多数。)

 全般的印象としてICBLが引っ張っている観が強かったです。具体的に貢献しているのはICBLやICRC、そしてILOなど、NGOや国際機関が多く、カナダ、ベルギーなどのオタワプロセスの中心を担った国々が陰の推進役となっているという感じでした。日本は2000-2001年のSC-VAの共同議長国を引き受けるなど積極的なポーズをとっているにも関わらず、実際にはICBLの被害者支援プログラムのポートフォリオと、オタワ条約の被害者支援に関する報告のために提案されているForm-Jの違いを質問してしまったりして、実質を担っていないことを露呈してしまったのは残念なことでした。

■ 概要とポイント

(1) 地雷被害者の参画

 近年、国際会議で、当事者自身の参加が主張され、奨励されるようになってきましたが、あらゆるレベルで地雷被害者の参画を進める必要が改めて強調されました。

 ICBLはこれまでも「被害者自身の声に立脚した議論」が行われるように意を払ってきましたが、個人の体験を語ってもらうことが主でした。そこで第3回締約国会議が開かれる中南米地域から8人の地雷被害者を選び、ロビイングのためのグループとして育てるプログラムを開始し、今回のSC-VAで紹介しました。会議ではその内の3人が、被害者が国・地域を越えて似たような問題に直面していること、社会復帰支援が鍵であることなどを述べ、Form-J(※1)を提出した国への感謝を述べました。

 この取り組みに対して多くの国から歓迎の言葉が聞かれ、他地域に広げるよう勧告されました。ICBLは第4回締約国会議が開かれる地域から8〜10人を選考の予定です。

(2) 資源の調整

 ここで問われたのは、必要を測る手段、必要に対する応答を測る手段です。オタワ条約で被害者支援は促進されたのかどうか、どれだけ被害者支援のための措置が取られ、どれだけお金が流れているのか、現時点では誰にも答えられません。地域や事業内容を絞った調査はあっても、比較・総合のための共通の指標がないためです。

 資源を適切に配分し、その進展を測るために、情報の収集と共有のための研究が必要であることが確認され、ポートフォリオ(※2)とForm-Jへの協力が勧告されました。

 なお、一般に地雷関連の予算で被害者支援にあてられているのは10%以下と言われています。日本の場合も箱物案件を入れても10%程度で、僅かな割合でしかありません。NGOも積極的に具体的提案を出す必要があります。

(3) コーディネーション

事業単位の計画しかないケースが多いため、国レベルでの長期的展望を持ち、政策の優先順位をつけ、行動計画を策定することが勧告されました。また「マプート戦略の7つの基本原則」(※3)が参照されるべきことが改めて確認されました。

ケーススタディに基づいた問題提起もあり、地雷対策センター(Mine Action Center)が犠牲者支援に関わっておらず、犠牲者支援の障害になっているケースすら多いことが報告されました。これについてはGICHDが調査を進めており、TMSPの前に報告が出される予定です。ただし国による諸事情の違いも大きく(必ずしもMACがVAに責任を持つことが適切とは限らない)、どのようなガイドラインを示すかは考えあぐねているということでした。

いずれにしてもNGOコミュニティの働きかけでようやく被害者支援のための動きが出てきたばかりというのが現状であること、研究もいいがもっと事業の展開に力を入れるべきこと(以上VVAF)、まだ十分に資源が振り向けられていないこと(WGVA-Susan)といったコメントが付きました。

(4) ガイドラインとその普及

 "Providing Assistance to Landmine Victims: A Collection of Guidelines, Best Practices and Methodologies"が配布されました。これはインターセッショナルワーク1年目にされたものがSC-VA議長国のニカラグア政府、日本政府によりまとめられ、カナダ政府によって発行されたものであり、地雷被害者支援に関わっている人には必携の資料です。

 なお、まだ被害者支援で焦点とするところを明らかにしていない国は明らかにするよう勧告されました。それらもまとめられて配布される予定です。

(5) 社会的・経済的復帰支援

 一般社会で仕事を見つけるのが困難な現状や、精神面の支援について報告がありました。伝統的対策では被害者が問題を抱えている前提で接することが多く、医療の領域に限られがちなこと、それに対して被害者同士で語り合う中で状況を認識し、共通の問題を見つけて解決していくピア・サポートの手法が紹介されました。

 「難民を助ける会(AAR)」の長さんが社会復帰で想定される職業について注意を促しました。AARでは被害者が家族と共に働けるような職を薦めているとのことです。

(6) 地雷回避教育

 大量に作って広く配る教材の利用が疑問に付されました。危険を招く教材すらあること、地域単位の調査に基づくべきこと、地域共同体の参加が効果的な実施と継続に必須なこと、パニックや恐れを作り出すやり方を避けること、地雷除去活動と結びつけた実施が有効なこと等が報告、提起されました。

 地雷回避教育については、今後は地雷除去に関する常設委員会に移すことが提案されています。

■ 終わりに

 他に地雷除去と関連技術に関する常設委員会などが開かれており、それらについてはICBLやGICHDのウェブサイトに報告があります。なお日本で関心が高い地雷除去・探知の新技術について、ICBLは欧州委員会などと共に、それらが実績をあげるのに失敗していること、既にふんだんにあって持続的に利用可能な既存技術の利用こそ重視すべきことを強調しました。条約のステータスと運用状況に関する常設委員会では、オタワ条約のImplementation Support Unit設置の提案がありました。

 まだ全般に基礎的な条件整備の段階ですが、数年前を考えると随分と進んだものだという感想を聞きました。それだけ自分達に役割があるということでもあり、私も今回の参加でキャンペーンへの意欲を新たにしました。

 日本政府に対しては、Form-Jの利用の呼びかけ、部署横断的オタワ条約担当者を置くこと、100億円公約(※4)と関わらせて被害者支援を進めるための具体的な工夫の提案など、多くの働きかけが必要なことがよく分かりました。また継続的に政府に圧力をかけ続ける国会議員のプレゼンスの必要も感じました。

2001-2002年第1回常設委員会は2002年1月28日〜2月1日に、2001-2002年第2回インターセッショナル常設委員会は2002年5月27日〜5月31日に、ジュネーブで開かれます。過去の全ての関連文書はGICHDのサイトで入手できます。

(※1)Form-Jはオタワ条約第6条3について締約国が自主的に年次報告するための書式で、これまでに8ヵ国が利用しました。

(※2)ポートフォリオは世界の被害者支援事業をまとめて紹介する冊子でココで入手できます。

(※3)「マプート戦略の7つの基本原則」:1)被害者の差別をしない(オタワ条約の批准・未批准、地雷による被害かどうか等で)、2)統合的、包括的な手法を取る、3)関連諸機関全てが計画策定に参加する、4)当事国のオーナーシップを尊重し、関係機関の組織強化にも努力を払う、5)透明性と効率性を確保する、6)持続可能な開発の手法を取る、7)被害者のエンパワメントと人権を保障する。

(※4)日本政府は98年から5年間を目処に地雷除去および犠牲者支援のために100億円を拠出する「犠牲者ゼロ・プログラム」を97年オタワ条約署名式で発表しました。